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「鼓に生きる」―― Report

file.04編集者・宮﨑博之さん

月刊「なごみ」連載当初より、担当編集として『鼓に生きる』を見守り、世に送り出して下さった、宮﨑さん。インタビュー後編では書籍化にあたってのこだわりなどをお伺いしました。

書籍へのこだわり

 

あらためて一冊の本になって、内容を読み返しますと、特に最初の十一世とのエピソードなどはジーンと来るところが多いですね。特に32ページの手紙は、あふれんばかりの愛情が感じられて、心打たれます。
書籍化にあたって、家系図や年表を改めて作成することになって、もう一度調べていましたら、締め切りも間近になったところで細かい部分の認識と違う事実が明らかになったりしてハラハラしたのも、良い思い出です。

表紙に田中流の家紋、裏表紙に亀井家の家紋をというのは私のリクエストです。
表紙は「ICHIMATSU」(市松)という紙ですが、その手触りに、編まれている、連綿と続いている、つないでいる、というイメージを感じて、これに決めました。お手許に書籍がある方はぜひ触ってみてください(笑)。

前書きには

 

「家、家にあらず、継ぐを以て家とす
 人、人にあらず、知るを以て人とす」
という言葉を入れさせていただきました。風姿花伝の世阿弥の言葉ですね。
最初はすごく迷ったんです。歌舞伎ではなく、能の方の言葉ですから。
ただ、田中流は能の囃子を非常に大切にしていらっしゃいますし、佐太郎先生が嫁がれたのはお能の家です。また、忠雄先生もおっしゃっていましたね。「継ぐを以て家とす」と。
色々考えていくうちに、これは本当に佐太郎先生や、亀井・田中両家をよく表している言葉じゃないかと思うようになり、この前書きを選びました。

一番最後のページ、張り扇を置いた締めの写真には「教外別傳不立文字」(きょうげべつでんふりゅうもんじ)というお軸が写っています。これは禅語で、茶道とも極めて関わりが深い言葉ですが、書物などに頼らずに、師の心から弟子の心へと直に教えを伝えてゆくべし、というような意味です。稽古場にはお家元(田中傳左衛門)自身がお選びになったお軸を掛けられていると伺っておりましたが、私どもの取材にまで気を配って下さっているのではないかと思うほど、この書籍の結びとしてぴったりのお軸でした。

「田中佐太郎」という人

 

誤解を恐れず言えば、佐太郎先生ご自身は、積み上げて積み上げて、今のご自分をつくり出された方ではないか、と思うんですよね。
そういう方の崩れない、揺るぎない強さというのかな、そういうところが普段のキリッとした佇まいに表れているのかなって。

書籍の中でお家元も仰っていますが、「田中佐太郎のような人は、この先、二度と出ない」と私も思います。そのような方をご紹介する機会を与えていただきましたこと、大変ありがたく感じています。
刊行後、ふた月も経たないうちに、重版が決定いたしまして、うれしい限りです。これがきっかけになって、佐太郎先生が主人公の小説が生まれたり、またそれが映像化されたり……などと夢を抱いているところです。


宮﨑博之(みやざき・ひろゆき)

1980年、長野県高山村生まれ。2002年、同志社大学卒業後、淡交社へ入社。営業部、月刊『淡交』編集部を経て、2015年より月刊『なごみ』編集長。